農地転用の許可申請を行った後、許可が下りるまでの間に、申請者が亡くなってしまうことがあるかもしれません。
例えば、農地を購入して住宅を建築するため、農地法第5条の許可申請を行ったところ、審査中に土地の所有者が亡くなってしまった場合です。
このような場合、既に提出した農地転用の許可申請はどうなるのでしょうか。
また、土地を売る側ではなく、購入する側が亡くなった場合も同じ取扱いになるのでしょうか。
実は、農地転用の許可申請中に譲渡人が亡くなった場合と、譲受人が亡くなった場合では、取扱いが異なります。
今回は、農地法第5条の許可申請を中心に、申請者が亡くなった場合の取扱いについて解説します。
1.農地転用の許可申請は誰が行うのか
まず、農地転用の許可申請について簡単に説明します。
農地転用には、大きく分けて農地法第4条と第5条の手続があります。
農地法第4条は、農地の所有者自身が、その農地を住宅敷地や駐車場などに転用する場合の手続です。
一方、農地法第5条は、農地を転用する目的で売買や賃貸借などによって権利を移転・設定する場合の手続です。
例えば、Aさんが所有する農地をBさんが購入し、住宅を建築する場合には、原則としてAさんとBさんが共同で農地法第5条の許可申請を行います。
この場合、Aさんが譲渡人、Bさんが譲受人となります。
それでは、許可申請を提出した後、許可が下りる前にAさんまたはBさんが亡くなった場合、どうなるのでしょうか。
2.譲渡人が亡くなった場合
農地法第5条の許可申請を行った後、許可が下りる前に譲渡人であるAさんが亡くなったとします。
この場合、原則として、最初から農地転用の許可申請をやり直す必要はありません。
譲渡人が亡くなると、その所有する農地は相続の対象となり、相続人が権利義務を承継することになります。
そして、農地転用の許可申請についても、相続人が申請上の地位を承継し、手続を進めることができるとされています。
ただし、亡くなったAさんの名前のまま、何も変更せずに手続を進めてよいというわけではありません。
申請書に記載された譲渡人を相続人に補正するなど、必要な手続を行うことになります。
具体的には、相続人を確認するための戸籍関係書類、遺産分割協議書、相続人の同意書などが必要になる場合があります。
また、相続登記が完了していれば、登記事項証明書によって所有者の変更を確認できる場合もあります。
もっとも、必要な書類や補正方法は自治体の取扱いによって異なります。
特に、遺産分割協議が成立していない場合には、相続人全員が関係することも考えられますので、農業委員会への確認が必要です。
3.譲受人が亡くなった場合
それでは、土地を購入する予定だったBさんが、農地転用の許可が下りる前に亡くなった場合はどうでしょうか。
この場合は、譲渡人が亡くなった場合とは取扱いが異なります。
原則として、改めて農地転用の許可申請を行う必要があります。
なぜなら、農地転用の許可では、農地の立地条件だけでなく、誰が、どのような目的で、どのような事業を実施するのかという点も審査されるからです。
例えば、Bさんが住宅を建築する目的で農地転用の許可申請を行っていたとします。
そのBさんが亡くなり、相続人であるCさんが代わりに住宅を建築したいと考えた場合でも、Bさんの申請をそのままCさんに引き継ぐことは原則としてできません。
BさんとCさんは別の人物であり、転用事業を実施する主体が変更されるためです。
したがって、Cさんが新たな譲受人となって農地を取得し、転用事業を行うのであれば、改めて農地法第5条の許可申請を行う必要があります。
なお、Bさんが亡くなったからといって、農地の所有権が当然にCさんへ相続されるわけではありません。
農地法第5条の許可を受ける前であれば、売買による所有権移転がまだ効力を生じていない場合があるためです。
このため、売買契約の内容や相続関係を確認したうえで、改めて手続を検討する必要があります。
4.農地転用の許可後に譲受人が亡くなった場合
ここまでは、農地転用の許可申請中に申請者が亡くなった場合について説明しました。
それでは、農地法第5条の許可が下りた後に、譲受人が亡くなった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、重要になるのは、土地の所有権が既に譲受人に移転しているかどうか、そして転用事業が完了しているかどうかという点です。
① 土地の所有権が移転する前に亡くなった場合
例えば、Aさんが所有する農地をBさんが購入して住宅を建築するため、農地法第5条の許可を受けたものの、所有権移転前にBさんが亡くなったとします。
この場合、農地はまだAさんの所有です。
Bさんの相続人であるCさんが代わりに農地を取得して住宅を建築しようとする場合には、原則として、改めて農地法第5条の許可を受ける必要があります。
農地法第5条の許可は、農地の権利移転と転用を一体として審査するものであり、譲受人が変わるためです。
② 土地の所有権が移転した後、転用事業が完了する前に亡くなった場合
次に、Bさんが農地法第5条の許可を受け、土地の所有権も取得したものの、住宅の建築工事が完了する前に亡くなった場合です。
この場合、土地の所有権は相続の対象となり、Cさんが相続によって土地を取得することになります。
相続による所有権の取得そのものについては、改めて農地法第5条の許可を受ける必要はありません。
しかし、転用事業がまだ完了しておらず、Cさんが引き続き住宅を建築しようとする場合には、別の問題が生じます。
農地転用の許可は、転用事業を実施する者や事業計画などを審査して行われるため、許可を受けたBさんに代わってCさんが転用事業を実施する場合には、改めて農地転用の許可が必要になるとする行政実務上の取扱いがあります。
この場合、既にCさんが相続によって土地の所有権を取得しているため、新たな権利移転を伴う農地法第5条の許可ではなく、自己所有農地を転用するための農地法第4条の許可が必要になるとされています。
ただし、具体的な手続については、管轄する農業委員会等への確認が必要です。
③ 転用事業が完了した後に亡くなった場合
最後に、Bさんが農地法第5条の許可を受け、住宅の建築など当初の転用事業を完了した後に亡くなった場合です。
この場合、相続人であるCさんが土地を相続したとしても、通常、相続を理由として改めて農地転用の許可を受ける必要はありません。
既に許可された転用事業が完了しているためです。
なお、単に土地の所有権移転登記が完了していることと、農地転用事業が完了していることは別です。転用事業の完了状況については、実際の土地利用状況などを踏まえて判断する必要があります。
このように、農地法第5条の許可後に譲受人が亡くなった場合でも、所有権移転の有無や転用事業の進捗状況によって必要な手続が異なります。
5.相続が発生したら、まず農業委員会に確認を
農地転用の許可申請中に申請者が亡くなった場合、最も重要なのは、その事実を速やかに農業委員会へ伝えることです。
特に、次のような事項を整理しておくとよいでしょう。
- 亡くなったのは譲渡人か譲受人か
- 農地転用の許可は既に下りているか
- 土地の所有権は移転しているか
- 相続人は誰か
- 相続人が引き続き転用事業を行う意思があるか
- 売買契約や事業計画を変更する必要があるか
これらの事情によって、必要となる手続が変わる可能性があります。
また、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議などに時間を要することもあります。
その結果、当初予定していた農地転用のスケジュールに影響が生じることも考えられます。
まとめ
農地転用の許可申請中に申請者が亡くなった場合、譲渡人と譲受人では取扱いが異なります。
譲渡人が亡くなった場合には、相続人が申請上の地位を承継し、補正などによって手続を継続できるのが原則です。
一方、譲受人が亡くなった場合には、転用事業を実施する主体が変わるため、原則として改めて許可申請が必要になります。
また、許可後に亡くなった場合であっても、所有権移転の有無や転用事業の進捗状況によって必要な対応が異なります。
農地転用と相続が重なると、農地法上の手続だけでなく、相続関係や売買契約の確認も必要になることがあります。
申請中に相続が発生した場合には、自己判断で手続を進めず、農業委員会や専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は農地法第5条の許可申請を中心とした一般的な解説です。市街化区域内の届出など、異なる手続については取扱いが異なる場合があります。また、必要書類や具体的な手続については、管轄する農業委員会等にご確認ください。

