農地転用を行うためには、その土地が農用地区域に含まれている場合、農地転用の申請をする前に「農振除外」の手続が必要になります。
私は過去に、この農振除外の段階で水利関係者との合意形成がうまくいかず、結果として農振除外の申出まで進めることができなかった案件を経験したことがあります。
当時の私は、「水利権者の同意書が取得できない以上、この案件を進めることはできない」と考え、そこで手続を断念しました。
しかし、その後さまざまな農地転用案件を経験した現在から振り返ると、本当にそこで手詰まりだったのだろうか、ほかに検討できる方法があったのではないかと思うことがあります。
水利権者の同意書は何のために必要なのか
まず、農地転用そのものについていえば、水利権者の同意書が農地法によって全国一律の絶対的な添付書類として定められているわけではありません。
一方で、農地転用の審査では、転用によって周辺農地の営農に支障が生じないことや、農業用用排水施設の機能に支障を及ぼすおそれがないことなどが確認されます。
そのため、自治体や案件によっては、水利関係者等との調整や同意書の提出を求められることがあります。
また、農振除外については少し事情が異なります。
農用地区域から農地を除外するためには、農振法上、土地改良施設の機能に支障を及ぼすおそれがないことなどの要件を満たす必要があります。
そして南部町では、農業振興地域整備計画変更事務取扱要綱において、農振除外の申出に際して、水利権者の同意書などを添付することとされています。
つまり、私が過去に経験した案件については、「同意書がなくても別の書類で代替して農振除外を進めればよかった」と単純に考えることはできません。
では、ほかに何ができたのでしょうか。
現在の私なら、「同意書をどうやって省略するか」ではなく、「どうすれば水利権者の懸念を解消し、同意を得られるのか」という方向から考えます。
「なぜ同意してもらえないのか」を考える
その案件で水利権者の同意を得られなかった大きな理由は、申請地への進入路でした。
水利権者側から進入路を限定する条件が示されましたが、その条件を申請者側が受け入れることができませんでした。
当時は、
「水利権者が進入路を限定する」
↓
「申請者はその条件を受け入れられない」
↓
「水利権者の同意書を取得できない」
↓
「農振除外を進められない」
というところで止まってしまいました。
しかし今なら、もう一段掘り下げて考えると思います。
そもそも、なぜ水利権者は進入路を限定したかったのでしょうか。
水路への影響を心配していたのかもしれません。
申請地へ侵入する車両によって農業用施設が損傷することを懸念していたのかもしれません。
農業用水の利用や維持管理に支障が出ることを心配していた可能性もあります。
相手が求めている「進入路の限定」は、その懸念を解消するための一つの手段にすぎなかったのかもしれません。
そうであれば、その手段そのものを受け入れられなくても、相手が本当に懸念している問題を別の方法によって解決できないかを考える余地があります。
相手の「要求」ではなく「懸念」を解決する
例えば、水路への影響が問題なのであれば、水路を保護するための施工方法を検討する。
排水への影響が問題なのであれば、排水計画を見直す。
申請地に侵入する車両による農業用施設の損傷が心配なのであれば、工事方法や通行方法、問題が発生した場合の対応方法を明確にする。
そのうえで、
「水利への影響についてはこちらの方法で対策します。その代わり、進入路については申請者が計画している方法を認めてもらえないでしょうか」
という別の提案を検討することもできたのではないかと思います。
必要であれば、対策内容を図面や文書にしたり、問題が発生した場合には申請者が責任をもって対応することを明確にしたりする方法も考えられます。
もちろん、それによって必ず水利権者から同意が得られるわけではありません。
しかし、「相手の提示した条件を受け入れるか、事業を諦めるか」という二択だけではなく、双方が受け入れられる第三の方法を探す余地はあったのではないかと思います。
同意書は「ハンコをもらうこと」が目的ではない
農振除外や農地転用を進めていると、「○○さんから同意書をもらってください」と言われることがあります。
そうすると、つい「同意書という書類を取得すること」自体が目的になってしまいます。
しかし、本来重要なのは、その同意書がなぜ求められているのかを考えることです。
農振除外では、除外することによって農業用用排水施設などに支障を生じさせないことが重要な判断要素となります。
そのため、水利権者から同意を得るということも、単に印鑑を一つもらうための作業ではなく、転用後も周辺の農業に支障を生じさせないための調整の一つと考えるべきでしょう。
そう考えると、
「どうすれば同意書をもらえるのか」ではなく、「相手は何を懸念していて、その問題をどうすれば解決できるのか」
という発想が重要になります。
農地転用では「落としどころ」を探すことも重要
農振除外や農地転用は、申請書を書いて役所へ提出すれば終わる仕事とは限りません。
申請者、水利関係者、隣接土地所有者、土地改良区、農業委員会、行政庁など、さまざまな立場の人や機関が関係することがあります。
そして、それぞれの利害や懸念が完全に一致するとは限りません。
そんなとき、
相手は何を心配しているのか。
申請者が譲れないところはどこなのか。
双方の目的を満たす別の方法はないのか。
その方法で行政上の要件を満たすことができるのか。
と一つずつ整理することで、別の道が見えてくることがあります。
私自身、過去のこの案件については、結果として農振除外の申出まで進めることができませんでした。
しかし、だからこそ現在では、「同意が得られませんでした。だからできません」で終わる前に、まだほかに検討できる方法がないかを考えることが重要だと思っています。
もちろん、行政書士が当事者の代理人として相手方と法律上の紛争について交渉することができるわけではありません。
一方で、農振除外や農地転用の制度を踏まえて問題点を整理したり、申請者が関係者や行政庁と協議するための資料を作成したり、計画をどのように修正すれば手続きを進められる可能性があるのかを検討したりすることはできます。
農地を活用したいものの、水利関係者や隣接土地所有者などとの調整がうまくいかず困っている場合でも、すぐに「この土地は使えない」と結論を出す必要はないかもしれません。
何が問題になっているのかを整理し、その問題を解消する別の方法がないかを検討することで、事業を前に進める方法が見つかる場合があります。

